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夕 [町のノオト]




   夕


町並のかげりにかこまれた白く低い路が

いっそう沈みながら遠くへ延びる

家々は 窓だけ切りぬき残されて 道といっしょに遠のき

まだ灯(ひ)のともらない部屋の底で人は 

眼に見えない不安に姿を変え

嘘に違いない幼い頃の人さらいの話と共に

誰かに連れていかれてしまった家族のことを思い出しながら

毎夜路のはずれからやってくるものの気配に耳をすましてい

 る



丘の上に立って

泣いていた子の 風の眼のような泣声も

あきらめたのだろう

しかしもしかしたらその子といっしょに

丘が吸いとってしまったのだろうか

もう聞えない



やがてその背中で 残りの光をさえぎりながら

自分がかくしてしまった向側のひろがりと町について

泣いていた子の行方について そして

地層が憶えている古い国や路の記憶について

丘は 路のはずれから

白くしずかに語りはじめてくる






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