妙な晩 [町のノオト]
妙な晩
なんという晩だろう
なまあたたかい風が遠い国の星や真夜中の出来事を連れて
波止場からのぼってきて
それで町はこんなにひっそりしているのだろう
大きな帽子を目深に被り つばの奥からのぞいている眼に
古い水平線を傾けた人が
横路や倉庫のうしろに迷いこもうとする
自分の影を犬にくわえさせて
石疊を真直ぐこっちにやって来るのだ
死んだ子がそのまま大きくなって 通って行くのだ
彼は死んでからどんなに
子供達の知らないさびれた国や
深い海のよどみをくぐりぬけ
そして人々の心のかげりを通ってきたろう
そこでどんなに沢山の事を憶えてきたろう
子供達にはそれが見え
彼の眼の中の景色が読めるのだ
それで蒲団中にはみだしてしまった夢の中でおびえているのだ
しかし大人達には
星が移る頃まで内職している母親にも
火見櫓の上で眼をさましている貧しい父親にもそれが見えな
い
ただ 時々妙な気配を背筋近くに感じて
思わず眼をあけ 息をころして不安そうに
自分の背中を見まわしているだけなのだ
そして夜が明けてみると
また子供が一人見えなくなっていた
タグ:妙な晩
2015-02-22 15:59
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