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妙な晩 [町のノオト]




   妙な晩


なんという晩だろう

なまあたたかい風が遠い国の星や真夜中の出来事を連れて

波止場からのぼってきて

それで町はこんなにひっそりしているのだろう



大きな帽子を目深に被り つばの奥からのぞいている眼に

古い水平線を傾けた人が

横路や倉庫のうしろに迷いこもうとする

自分の影を犬にくわえさせて

石疊を真直ぐこっちにやって来るのだ

死んだ子がそのまま大きくなって 通って行くのだ



彼は死んでからどんなに

子供達の知らないさびれた国や

深い海のよどみをくぐりぬけ

そして人々の心のかげりを通ってきたろう

そこでどんなに沢山の事を憶えてきたろう



子供達にはそれが見え

彼の眼の中の景色が読めるのだ

それで蒲団中にはみだしてしまった夢の中でおびえているのだ



しかし大人達には

星が移る頃まで内職している母親にも

火見櫓の上で眼をさましている貧しい父親にもそれが見えな

 い

ただ 時々妙な気配を背筋近くに感じて

思わず眼をあけ 息をころして不安そうに

自分の背中を見まわしているだけなのだ



そして夜が明けてみると

また子供が一人見えなくなっていた








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