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町のノオト [町のノオト]




   町のノオト


なにもかもちがう と

空の青さの中で

あぶなそうな平衡を支えながら言うのだ



町はこんな狭い路に沿って

蔭とむきあったままだまりこくってはいなかった

長いうなじをふりながら

かげり始めた町の片側を

重い荷を曳いて通っていく馬の瞳には

こんな深いあわれな色がよどんではいなかった



そして俺は 切りぬかれた影絵のようなこんな姿で

見送っているだけの俺ではなかった

これらの姿をだまって包んでいる深い空に俺は

くらやみの底から涙を吸いとらせたのではなかった



ーー空気を透してはじめて景色にふれた景色にふれた瞳をしばたいて

めくらだった彼はさびしそうに言うのだ



ぼくはそれを道のはずれに置き忘れてきた

自分の声のようにききながら

瞳からしみこんできた景色によって

彼の中で長い間ゆすがれていた空や町や人間の形が

次㐧にずれていくのを そして

いつまでも直線に結びつくことのない

ガラスのズレのような間を 再び薄明の奥へ

次㐧に小さくなりながら遠ざかっていく

彼の後姿を 心に切りとりながらも

何処かとんでもなく遠い果てから帰ってきたように

あわれな馬たちの通っていく

ぼくらの小さな町へ帰ってくるよりほかなかったのだ






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