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伝言板 [詩]

 


   伝言板


 ふるえる指さきで一つ一つ

書きかさねられていった厚ぼったい文字が、

重くはげおちる。

壁がはげおちるように。



 真夜中の構内は大きな欠伸をして

地球の夜をのみこむ。

その乾いた喉のむこうに、闇よりも黒々と

たっている伝言板。



 そいつがたち去ったあとで、

また、ひょっこりもどってきて、

長い影をひいて、たっているそいつの影。



 はたされなかったかずかずの約束。

のぞき見た穴よ。直角にそれていった人生が

遂にぶつかりあうことなく暮れてしまった

軌跡のさきで、思い出す伝言板よ。



 あすになれば、また

そこを心疲れた人々の群が、

白いカーヴをえがいて通りすぎる。

何かをふりおとし、すりへらしながら。



 息子を待ちつくして暮れた老母の

しょぼしょぼの眼がコンクリートの底から

それらの重い人波を、人波のうしろの

うす暗いけはいを。ぼんやりながめている。


 誰からもわすれられた息子の体は、

遠い南の海岸で、

何年も何年も前からの同じしぐさで、

白く波に洗われて、



 もうなんにもなくなってしまった

からっぽの頭骸骨の地平線には、

枯ススキのようにぼんやりと、遠い昔の伝言

 板の記憶が、

傾むいている。









「詩学」 S29年 12月号










タグ:伝言板
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