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幾つかの詩   (その3) [評論 等]





 この作品は聴覚に働きかける要素を多く持っている。「寒い

風の中で雀を手にとって」という表現にともなって聞えてくる

風の中で雀を手にとって」という表現にともなって聞えてくる

風のかすかな音、「雀」のおどおどした動作がもたらす無音に

近い音、霜が降る時の聞きとれないほどの音、電報を打つとい

うことがらから連想される電信機特有の発信音、母親の泣声、

遠洋航海を続ける船の波の音と遠い潮鳴り、つるべの音、兄を

叱る先生の声等々。しかしこれらの音ないし声は、作品の展開

につれて次々と消し去られ、やがて作品が完結すると同時に、

いっさいの音は作品の世界に吸収されて、不思議な静謐が全体

を領する。そして静謐の底から浮び上がってくるものは、「雀を

手にとって愛してゐた子供」の無口な顔や孤独な眼であり、北

風が吹き霜で白くなった往還を、電報打ちに走って行く兄の姿

であり、遠い海上で電報を読んでいる父親の顔であり、泣いて

いる母親の姿であり、更には泣きやんだあとの母親の表情であ

り、そして「学校で叱られた」時の兄の表情などである。しか

しそれらにもまして鮮かに見えてくるものは、中也自身の顔で

ある。











以下、その4へ続きます。



タグ:聴覚
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