友だちの詩 (その4) [評論 等]
孤独な象の物語 嶋岡 晨
誰もしんじつのぼくを見てくれないと、象は盲人たちとわかれて
から呟いた。
しかし、かれの二つのつぶらな目にも、かれ自身のすがたは見え
なかった。
椰子の木のしたで、象はバナナを食べながら、水たまりにうつる
雲を見ていた。
あれがほんとうのぼくかもしれない。
しばらくして、赤いターバンの象使いがやってきて、かれの背中
にまたがって口笛をふくと、象は長い鼻をまっすぐ天にのばしなが
ら、ぼくをよく知っているあの若者は、それではいったいなんだろ
う、と思った。
愛の神。かれにもそれが一人いた。
風が吹くと象はビスケットのように小さくなって、森のむこうに
消していった。象牙をひろう少女たちの幻をえがきながら……。
嶋岡には才気煥発といったところがある。そして私たちの仲間の
中では最も幅広く人とのつきあいもし、その生き方も積極的であっ
った。その反面、こまやかで傷つき易い神経を心の奥に秘めていて万
事に気をくばった。一見したところ私の方がおとなしく、その上真
面目で傷つきやすい人間のように見え、それは衆目の一致するとこ
ろであるが、実は私よりもはるかに嶋岡の方がこまやかな神経を持
っている。嶋岡と国電に乗っていて感じたことがあるが、彼は坐っ
ていても前の座席にいる人の視線が気になってしかたがない、とい
う風でおちつかず、足を組んでみたりほどいてみたり、眼をつぶっ
たかと思うとすぐにあけ、はたで見ている私の方がかえっててれく
さくなるくらいであった。
以下、その5に続きます。
2015-06-27 19:10
nice!(0)
コメント(0)
トラックバック(0)
コメント 0