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友だちの詩   (その4) [評論 等]





  孤独な象の物語           嶋岡 晨


 誰もしんじつのぼくを見てくれないと、象は盲人たちとわかれて

から呟いた。

 しかし、かれの二つのつぶらな目にも、かれ自身のすがたは見え

なかった。

 椰子の木のしたで、象はバナナを食べながら、水たまりにうつる

雲を見ていた。

 あれがほんとうのぼくかもしれない。

 しばらくして、赤いターバンの象使いがやってきて、かれの背中

にまたがって口笛をふくと、象は長い鼻をまっすぐ天にのばしなが

ら、ぼくをよく知っているあの若者は、それではいったいなんだろ

う、と思った。

 愛の神。かれにもそれが一人いた。

 風が吹くと象はビスケットのように小さくなって、森のむこうに

消していった。象牙をひろう少女たちの幻をえがきながら……。



 嶋岡には才気煥発といったところがある。そして私たちの仲間の

中では最も幅広く人とのつきあいもし、その生き方も積極的であっ

った。その反面、こまやかで傷つき易い神経を心の奥に秘めていて万

事に気をくばった。一見したところ私の方がおとなしく、その上真

面目で傷つきやすい人間のように見え、それは衆目の一致するとこ

ろであるが、実は私よりもはるかに嶋岡の方がこまやかな神経を持

っている。嶋岡と国電に乗っていて感じたことがあるが、彼は坐っ

ていても前の座席にいる人の視線が気になってしかたがない、とい

う風でおちつかず、足を組んでみたりほどいてみたり、眼をつぶっ

たかと思うとすぐにあけ、はたで見ている私の方がかえっててれく

さくなるくらいであった。











以下、その5に続きます。



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