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石原吉郎書附け 一 点燭 (その3) [評論 等]





 シベリアに於ける強制収容所体験、その体験がもたら

した「暗黒」が、石原氏の詩的覚醒・詩的点燭にとって

決定的な意味を持った事情は、右にみた通りである。し

かし、強制収容所体験が、単に石原氏の外部に生じた事

件であったのだったならば、詩人石原氏にとってはいか

ぼどのこともなかったであろう。事件が石原氏自身の内

部に生じたのでなかったならば。

 実は「暗黒」は石原氏自身の内にあったのであり、強

制収容所体験はそのことを石原氏に知らせる作用をなし

た。

 「私の友人」「彼」とは石原氏自身であり、「取調官」

もまた石原氏自身であった、とみるべきであろう。「私

の友人」「彼」に象徴される何者かが、「取調官」に象徴

される何者かによって、「私」即ち石原氏の内で強制収

容され、死んだ。そして「私の友人」「彼」の残した言

葉は重苦しく「私のなかに残」ることになった。これが

事件であった。これが強制収容所に於ける「ありのまま

の真実」であり、そしてこの「事実の承認」が石原氏を

詩へ駆り立てたのであった。



   そこにあるものは

   そこにそうして

   あるものだ

    (略)

   見たものは

   見たといえ

                    (「事実」部分)



   不敵な静寂のなかで

   あまりにも唐突に

   世界が深くなったのだ

   見たものは 見たといえ

                   (「脱走」部分)










以下、その4へ続きます。



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