水族館 [詩]
水族館
ぼくらの眼のま下に水族館がある。
深々とたたえた水をのぞかせて。
眼はその深みの上に張られた
すどおしのガラスだ。
素ガラスには外の空が映え 木の蔭が落ち
時としては野良犬が横切っていくこともあるが
それらの下に魂の海水はたたえられ
さまざまな裸(はだか)のイメージや「思い出」が
魚のように棲んでいる。
水面に近いところには
夏や朝が
そしてついさっきすれちがった人影が
中ほどには
きのうやおととい通ってきた世界の夕空が
一番深くには
遠い過去の中の少女の顔が………。
水の途中(とちゅう)にじっととまって動かない魚や
物かげにかくれひそんでいる魚や
水面近くを涼しく泳いでいる魚のように。
どのイメージも「思い出」も濡(ぬ)れて
水を透したむこうに鮮かに見えるが
水の深みから汲み上げると消えてしまいそうだ。
「中学生文学」 1968(S43)年 9月号
2015-07-14 20:45
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