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二冊の詩集   (その4) [評論 等]





 金丸枡一詩集「默契」(昭森社)

 

 たしかに在って見えない

 かたちのようなものら





 これは「新・お伽噺その1」と題する作品

の冒頭の詩句である。これに類する表現はこ

の詩集のそこここに見られる。例えば次のよ

うな具合である。

 「遠くにあって ない/近くにあって 見

えない」<葉ざくら>「見えないおまえを描

きだそうと」<日の闇・おまえに>「在ると

いうことのふたしかさのゆえにさらにはげし

く在る」<日の歌>「だのに それは透明に

くるまれて見えない」<日の歌>「一個の卵

よりふたしかにかたちであるもの」<日の

歌>

 「たしかに在って見えないもの」への探索、

これがこの詩集を一貫する基本テーマで

あるし、そのような探索を通して金丸氏の関

心に常にあるものは「『わたし』とはいった

い何であった」か(「夏の海」)の解明、確認

である。この詩集でうたわれている多様な題

材はすべて、金丸氏の存在論的な形而上世界

に裏うちされている。





 幻影



 おまえが言う

 いっしんに野菜をきざんでいたら

 だれかがふっと外をよぎった

 でも だれもいなかった

 おまえは言う

 いっしんに編物をしていたら

 犬がわたしのよこをかすめて駈けた

 でも 犬なんかいなかった

 おまえは咳く

 でも なにかがいつもわたしのよこを駆けぬける

 あなたや犬や猫やが

 ほんとになぜだろう

 おれのかたがわをなにものかがいつも擦過する

 おまえやむすこたちであったりする

 血だらけの負傷兵であったりする





 この作品は本詩集中最も優れた作品であ

り、金丸氏の資質が遺憾なく発揮されてい

る。形而上的想念と抒情性がほどよくバラン

スをとって定着されている。











 以下、その5へ続きます。



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