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ガード [詩集 井戸]




   ガード


ガードがあった

ガードをはさんでこちら側に町があった

向う側にも別の町があった



しかしこちら側に住む人々にとっては

町のすべてはそこで終っていた

そこまで続いていった白い路は

ガードがおとしている蔭の中に入って涼しくかげり

ふたたび向う側に現れた時には

変身して

別の町の路になって続いていた



路端に立って見送る者の眼に

帰ってゆく者は ガードをくぐりぬけて

もう呼び戻すことの出来ない別の人になって

去っていった



ガードはそこにあるというだけで

ふしぎな働きをした

こちら側の町に住む人々にとっては

ガードの向うは

まったく別の世界のような気がした

そこには別の雨が細く降った

それから別の青さの天気があった

人はいつも 遠くからそれらを眺めた



人々は いつも歩きなれた路のはずれに

そのようなガードを持っていた

そしてガードの向うに

一度も歩いたことのない「路のはずれ」を持っていた

いわば「終点」までまだ行ったことがないように



多くの人たちは

行こうと思えばいつでも行けたのだが

いつでも行けるということがかえって

人々に行く機会を失わせ

行こう行こうと思いながら

とうとう一度も行ってみずに

人は死んでいった



ガードのむこうには

そんな町があった










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