魚のかたち [詩]
魚のかたち
Ⅰ
魚のかたちとは
透明になる前に
かすかにあった
色彩のことではないか。
色彩は 薄い血に似て
水に薄まりやすく 散りやすいが
波のおだやかな時には
魚の生理の筋道に沿って
細部に至るまで 巡っているのが透けて見える。
おのれの存在を透析するようにして。
時々 貧血にみまわれながら。
2
かすかなものであろうとも
そこにかたちが息づきはじめれば
水の流は おのずからたゆたい
魚のかたちに体温が保たれ
いつしか「思い」がつのり
「心配」や「哀しみ」の翳りも深まる。
魚のかたちとは
そうしたもろもろのもののもたらした
濃淡の陰影であり 負数の世界なのだ。
それは 水温よりもさらに低い水質の領域だ。
それゆえ 魚のかたちは 体温のように
水におかされやすく 薄まりやすい。
ひとたび薄らぎ 水に流されたかたちは
ふたたび集めようがない。
寄せてくるのは波ばかり。
波にゆらめく残照ばかりだ。
ーー「貘」21号、89年12月
「現代詩手帖」 1990(H2)年 12月号
2015-07-13 20:00
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