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三冊の詩集   (その2) [評論 等]





   お先に



人は

「お先に」といって

僕のゆけないところに行ってしまった。

母もそうでした

ふくれた足や

膨れた顔が

数十年も

黒い空に

切れ切れの虹をはなって

毎日

毎夜

僕のうちの窓から

しのびこんで

僕にどんなおもいをさせましたか



人は「お先に」といって

僕のゆけないところに行ってしまった



 徳田氏は人間の死を「『お先に』といって

/僕のゆけないところに行ってしまった」と

いうふうに捉えている。こういう捉え方の底

には、人間の生き死にについての素朴な魂と

感受性がひそめられている。ものの存在及び

その消滅について、その言い表わしようのな

い不思議さについて、自分の知慧のありった

けを尽し、眼をいっぱいにひらいて思いをい

たしている素朴な姿を私は想いうかべる。素

朴さはそのまま人間のあたたかさと強さに通

ずる。

 「『お先に』といって」死んでゆく「人」

の姿は、なんとつつましやかで美しさにみち

ていることだろうか。この「人」たちは、お

そらく欲張った考えも持たず、ひたむきに自

分の小さな人生を生き、その中で喜んだり悲

しんだり苦しんだりし、時に誤ちとも言えぬ

ほどの誤ちを犯したりしながら、総じて生真

面目に生きた人たちであるだろう。そして人

生の終りに際して、「お先に」と言って去っ

て行くこの「人」たちの態度は、人間として

の叡智にみちており、人間の本当の強さと偉

大さを示すものである、と徳田氏は主張して

いるように思われる。

 少年のものとも言える素裸の魂……云々と

私は書き、素朴さということについても書い

た。しかしそのような魂や素朴さを内から支

えているものは、徳田氏の豊かな人生体験や

叡智の深さであって、この両者の秀でた釣り

合いが徳田氏の作品を優れたものにしてい

る。











以下、その3へ続きます。



タグ:素朴 お先に
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