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風 [町のノオト]



 風



魚の眼から泪をかわかし

一枚の空に奥ゆきと深さをしみこませ

北の地平と南の地平

その間にひろがる曠野と道と町との距離を

こぼさずにすき透したまま

澄んだ眼が後姿を見せてゆれていく



遠いローランの歌

地の果ての流浪の民の歌声

冷えて高い空

角笛



地平を向う側へまわっていったら

どんなにさびれた町と陰が

ひっそりむきあったままでいるか

町を遠くつらぬいている

雨に洗われた細い石畳のはずれに

栄えていた市(いち)はどうなったろう

泣いていた子と長い影はどうしたろう

さらにその向うの陽が落ちる地平に立つと

どんな地球の果てが見えるか



風たちはみんな知っている

しみ透る体温でふくれあいながら

それらの景色を切りぬき

こぼさないように瞳の底にひたすと

地球の果てをこえ 裏側をまわって

また反対側の地平からあらわれてくる



時々 ぼくらの町の細い道を通り抜ける時

風たちだけが憶えている

道についての記憶をささやきあう

そして切りぬいてきた景色を

すり減った石畳に影絵のように落していく



それらは 人々の薄い瞳をしみぬけ

魂の重なりあう深いよどみをゆらし

まだ見たこともない地の果ての国に

人々をその影からひき離してつれていく






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