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白うさぎ [町のノオト]



   白うさぎ

          ここにイナバの白うさぎ

          皮をむかれて赤裸 ーー童謡


ほっといてくれ

誰も 俺にさわるな



心にまでしみとおる空の深さも

よどみを浪立たせる澄んだ風も

かすかなほこりをたてていく時間も

俺の肩から足元にすべり落ちた

くっきりした影の輪廓を ゆらし

ひんやりと地の底へ吸いこまれていく水の記憶も



あまりにもまぶしいはずかしさだ

あかるさの中で 俺は痛いのだ

俺は皮をひんむかれ

ふるえあうのをやっと合せた手の形に

立たされている むき出しの良心なのだ



空よ 空よ

そんな青さで 地平線の上におりてくるな

肩の上の深さが身にしみる

俺の立っているすき間がない

身をずらせるすき間がない

足摺りすることも出来ない

俺は真空も残さずに くずれそうだ



ワニザメ ワニザメ

俺は君をあざむいたりしたんではなかったんだ

だましっこしたあと みんな無邪気に

顔を見合せて 笑いあおうと思ったんだ



ワニザメ ワニザメ

俺の皮膚をひっぺがし

皮膚の下に海のようにねむっていた

俺の良心をめざめさせてしまった時

君の顔のむこうから

さびしい顔がかけだしてきたね

俺はのぞいてしまったのだ



その時初めて俺は

本当に君をあざむいたことに気がついたのだ

それから俺は あの時のままで

ずうっと此処に立ちつづけているのだ

(人々の涙の中で 耳をたれ

両眼をこすって立っているのは俺ではない)

言いそこなったひと言がみっかった今も

わびる相手の姿が見つからぬままに



オオクニヌシの命が 通りがかりに

すずしそうな言葉をかけてくれたが

俺はみむきもしなかった

一度眼ざめた良心を

ねむらせようなどとは思わなかった



ワニザメ ワニザメ

もう一度かえってきてくれ

澄みきった空に 白い線を描いた脚のバネをかえしてくれ

草にこすりつけた柔かい肌を着せてくれ

もう一度俺を遊んでくれ そして

俺にたったひと言本当の心でわびさせてくれ



だが走りよろうとすれば

ひっぺがされた肉の肌につきささってくる

砂利まじりの乾いた砂浜が

ひろがっているばかりだ



そして俺は知っている

ガマの葉の向うに のぞいている海には

ワニザメはいないのだ

ただ海の深さが 底まで沈んでいるだけだ








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