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道 [詩]

  


   道



 丘がきりくずされて、

道がつくられた。



 重たい地層の底から、

ぼくらと違う人間の骨が掘り出され、

それはきれいに洗われて、

標本室のガラスの戸棚にしまわれた。



 あたらしい道のはてには、

いままで見えなかった遠い景色がみえ、

その向うではかすかに海がひかった。

さらに、海のかなたには

白いビルのたちならぶ外国の街があるとゆう



 たそがれはそれらをぼかし、

秋はいっそう 街路樹の枯枝の間に、景色を大

きくみせた。



 その道をいろいろな人が通り、

彼らはみな遠い景色をながめては、

ふと、此処から掘りおこされた人骨のことを

思いうかべ、

ーーそしてもうおたがいにあうことがなかった。



 道はやがて、草におおわれて消えた。

そして、また何処か地球の一角がきりくずさ

れて道がつくられ、

いままで見えなかった景色がそれらの果てに見えるようにな

った。



<沢山の骨がうずめられ、それらは、ほと

んど掘りおこされずにそのまま朽ちて地層に

なった>



 夜になると、

こうしてつくられた地球のすべての道のはて

に、

火星があかくもえた。







 「詩学」 S29年 11月号





 嶋岡 晨先生が、編まれた、『心にのこる日本の詩 』(講談社 青い鳥文庫)にも収録されています。




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