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深夜放送 [詩]

  


   深夜放送


雨滴がつたわってくるように それは

眼に見えない電線の中をとおって

しっとりと 皮膚全体からしみとおってきた



それはどんな言葉で話しかけてくるのか。

足音もせず

どんな表情でぼくらの底へおりてくるのが。

そしてそれをしゃべっているのは誰だろう。



にんげんたちからふり落ち、

穴だらけの舗道を傾むきながら横ぎり

すりへった石塀に沿って曲っていった

にんげんたちの

疲れに重たくふくらんだひるまの言葉が、

地層の底深くに吸いこまれてゆき、

今日最後の尋ね人のアナウンスも

ローソクがもえつきるようにしてふき消え、



さらに深い夜の底へ地球全体が

大きく傾むきこむころ、

どこか遠いはずれから それは

ゆれながらやってくる……



それがどこの国の言葉かぼくらは知らない。

どんなに遠い道のりをやってきたのかも

ぼくらは知らない。

けれども



ぼくらの眼から、

口から毛穴から。

人型の中へ

それとそっくりの人影がしのびこむようにし

 て、

それは入ってくる。

やがて大きくゆれながら

ぼくらの体の大きさにまでひろがってゆき、

ぼくらからそれははみだしてしまう。



長くながくつづいてきたにんげんの歴史。

口の遠い道のりの途中で 風から

にんげんの灯(ともしび)をまもって、

土に還っていったたくさんの人たち。

ーーその人たちのそれは言葉であるかも知れ

 ないのだ。



心を傾むけてぼくらはらく。

それをしゃべっているのは誰であるか。

そしてそれは何を言をうとしているのかを。



雨滴がつたわってくるように 今夜も

それは

どこか遠い宇宙のはてから

ぼくらにむかってやってくる。






 「詩学」 S30年 7月号









タグ:深夜放送
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