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火事 [詩]





   火事


古くから受継がれてきた火事が

今も ぼくらの内で燃えつづけている。

魂の空を焦がし

地平線のあたり 家々の屋根を浮きあがらせて。



妙に静まりかえった内部のその街には

人影もなく

消防自動車のサイレンもきこえない。

出火原因の究明も

類焼面積の調査もなされた形跡がなく

火事は 燃えるにまかせて放置されている。



誰も自分の火事に気づきながら

誰もそれに気づかないふりをしている。

時々ぼくらは相手の眼をのぞきすぎて

そこに火の手を認めると

互いにあわてて視線をそらし

急に話題を変えたりする。



ぼくらの生が始まると同時に

何者かによって放たれた火は

ぼくらの生を焼きつづけ

悔恨の灰燼をあとに残し

魂の空を焦がしながら燃えひろがってゆく。











 「詩学」 S58年11月号



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