芭蕉の一句 (その7) [評論 等]
「江戸文学について」私は何程の事も言うことが出来なかった。
私に力がない為である。初めにことわったようにわずかに私は芭
蕉の一句に雑な仕方でふれただけである。これを書きながらも、
「一首を吟味するに際して、作者はなぜかういふことを言はずに
居れなかったか、如何なる内部急迫から、このような表現をしな
ければならなかったかを吟味することである。」(茂吉『歌の鑑
賞』)という言葉を思いうかべて自分をはずかしく思った。とも
あれ私は江戸時代文学に伝統への対決のしざまという面からも一
つのきわだちの姿を見るものであり、そのエネルギーの解明とい
うことについては、文学面に於ける問題としてとらえるばかりで
なく、例えば、レオン・バジエスの『日本切支丹宗門史』に書か
れているような事情、キリスト教という新思想の普及とその殉教
者が、江戸時代に於いて多量に現出したという事実についての顧
慮ということなども頭にうかんでくるのであるが、今はそのこと
にもふれられない。
「詩学」 S36年 9月号
2015-06-17 20:46
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