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石垣りん詩集『表札など』など   (その2)   [評論 等]





 ああ あなたでしたね

 あなたも死んだのでしたね。

 

 ここに用いられている感動詞「ああ」には、

複雑な思いがこめられている。「ああ」と息

を吐くことによって、理性が目をつむり、思

考や判断があずけられてしまうということが

ない。ここにあるものは「眠り」とは反対の

もの、「あなた」についての忘却がよびさま

され、対象をはっきりと認識するためのさそ

い水としての力を持っている。「あなたも死

んだ」のであることが確認され、「ひとつの

いのち。悲惨にとぢられたひとりの人生」が、

改めて鮮かにふりかえられてくる。そして

「ああ」と気づくことによって、「あなた」

を今迄忘れていた自分のふっつかさがふりか

えられ、「私はどのように、さめているの

か?」という自省へと作者の心を導き、更に

は「死者の記憶が遠ざかるとき、/同じ速度

で、死は私たちに近づく。」という思考へと

心をむかわせる。つまり理性的めざめにむけ

て、石垣氏自身及びこれを読む私たちの心を

方向づける働きを持っていることによって、

「ああ」は、感動詞が本来おちいりがちな詠

嘆や手放しの深刻ぶりからまぬがれ、死んだ

人たちの「悲惨にとぢられた」「人生」を私

たちに明らかにするのである。「ああ」と言

うことによって石垣氏の眼は見ひらかれ、い

よいよ澄みとおり、対象をしっかりと追いは

じめるのである。











以下、その3へ続きます。



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