石垣りん詩集『表札など』など (その2) [評論 等]
ああ あなたでしたね
あなたも死んだのでしたね。
ここに用いられている感動詞「ああ」には、
複雑な思いがこめられている。「ああ」と息
を吐くことによって、理性が目をつむり、思
考や判断があずけられてしまうということが
ない。ここにあるものは「眠り」とは反対の
もの、「あなた」についての忘却がよびさま
され、対象をはっきりと認識するためのさそ
い水としての力を持っている。「あなたも死
んだ」のであることが確認され、「ひとつの
いのち。悲惨にとぢられたひとりの人生」が、
改めて鮮かにふりかえられてくる。そして
「ああ」と気づくことによって、「あなた」
を今迄忘れていた自分のふっつかさがふりか
えられ、「私はどのように、さめているの
か?」という自省へと作者の心を導き、更に
は「死者の記憶が遠ざかるとき、/同じ速度
で、死は私たちに近づく。」という思考へと
心をむかわせる。つまり理性的めざめにむけ
て、石垣氏自身及びこれを読む私たちの心を
方向づける働きを持っていることによって、
「ああ」は、感動詞が本来おちいりがちな詠
嘆や手放しの深刻ぶりからまぬがれ、死んだ
人たちの「悲惨にとぢられた」「人生」を私
たちに明らかにするのである。「ああ」と言
うことによって石垣氏の眼は見ひらかれ、い
よいよ澄みとおり、対象をしっかりと追いは
じめるのである。
以下、その3へ続きます。
2015-07-25 21:09
nice!(0)
コメント(0)
トラックバック(0)
コメント 0