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聴覚 [町のノオト]




   聴覚

      ーー向日葵


土の底の静寂からはえて おれは

しんとした夏の空の深さの奥に

首筋をのばし

すき透った聴覚をひんやりひらく



しんとさえきった底から 一つの鋭い叫び

泣きじゃくり次の瞬間やんだ声を

きいたように思ったのだ



ひっそりした季節のむこうに 空は深く

記憶のような町や村の午後は しずまりかえり

どの町どの村にも 紅い花々が咲き狂い

消毒された白い病院は空の中にくっきりと

犬の舌 つめたい眼が蔭の奥でひえていた



だが俺はその時すでに

何事もなくしずまりかえった 病院のうしろ

紅い花や犬のぬれた舌眼玉のむこうに

蔭のようにひそんでいる歴史の声をきいた

すべての しずけさの中で行われる悲惨を

おびえる人々の唖のような表情を見た



薄くかすかにふるえていた俺の聴覚は

位置を定めてひらききり

渦巻形をした俺の耳底に

空の深さはそのまましみとおり

鋭い叫びはいっそう鋭く

季節のむこうからきこえてきた






タグ:紅い花 聴覚
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